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センスとは何か

「「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講座」を読んだ。

非常に読みやすく、面白い本である。本のレイアウトも工夫がなされている。章にあたる講(講義を書籍化したものだから)の始まりとして、右ページに各講のタイトルが来るようになっていて、その前の見開きページには必ず写真が入っている。とてもスタイリッシュな構成だと思う。文字の大きさも、読みやすい(もしこれ以上、大きくなると逆に読みにくくなるだろう、その意味で絶妙な大きさ)。さすがである。

内容も、もちろんさすがである。この本には著者なりのセンスの定義が書かれている。すなわち、「センスとは、集積した知識をもとに最適化する能力である」(p53)。「ぼくらが何かを選んだり、決めたりするときに」ぼくらがしていることは、「自分がそれまで蓄積してきた知識をもとに、最適化を」(p53)はかることなのではないかと、著者は言う。

著者の主張の肝は、センスとは先天的なものではなく、後天的に、学習によって身につけることが可能なのだということにある。そしてセンスの磨き方として、著者は3つの方法を挙げている。僕なりに別の言葉に置き換えるならば、「不易流行の追求」と「パタン認識」とでも言えるだろう。方法以前に何よりも重要なことは、センスを身に付けたい分野、ポップミュージックでも、ファッションでもなんでもいいが、その分野に関しては、圧倒的な情報量を浴びることだろう。

センスを身につけるための極意、それは、「好きこそ物の上手なれ」に尽きると言えるだろう。

システムダイナミクス

平井孝志氏の「本質思考 MIT式課題設定&問題解決」(東洋経済)を読んだ。

本質から考えることの重要さを伝え、その手法としてのシステムダイナミクスを紹介する一冊。システムダイナミクスとは、「MITのジェイ・フォレスター教授によって生み出されたコンピュータシミュレーション」(p57)を出発点とする理論である。それは科学の一般的な手法である「要素還元主義に対するアンチテーゼ」(p59)としての意義を有し、「全体を俯瞰するスタンス」(p59)が特徴である。「ものごとの本質を、現象の裏側にひそむ「構造(モデル)」と「因果(ダイナミズム)」として捉える。」(p53)

モデルとは、「現象を生み出す構造、つまり、構成要素や、それらの相互の関係性のこと」(p53)であり、ダイナミズムとは「そのモデルが生み出す現象について、長い目でみると、どのような結果や動きが見られるのか」、「どのようなパターンが見られるのか」(p54)を意味するという。そして真の問題解決に導くためには、「ダイナミズムを理解し、モデルを変えること」(p70)が必要であるという。

モデルにもダイナミズムにも典型的なパターンがみられ、それぞれを把握する際のヒントやポイントが本書では具体的に説明されており、大変に参考になる。そして理想的な問題解決とは「読み解いたモデルとダイナミズムをもとに、モデルを変えるためのレバレッジポイントを見つけ、モデルを変えていくこと」(p161)と著者は言い、レバレッジポイントを探る際のヒントも挙げている。本書に実際にあたって確認してみてほしい。

かなり重厚な理論が、シンプルに、かつわかりやすく述べられており、手元に置いておきたい一冊である。

ナリワイについて

伊藤洋志氏の「ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方」は、現代の社会における生き方に新たな提案をする。それは、かつては当たり前であった働き方であるが、戦後の日本の高度経済成長のなか、大幅に失われてしまった働き方であるという。

著者の提案する働き方は、「ナリワイをつくる」というものである。ナリワイとは「生活の充実から仕事を生み出す手法」(p32)であり、「大掛かりな仕掛けは使わずに、生活の中から仕事を生み出し、仕事の中から生活を充実させ」(p33)こと、あるいは「個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事」であるという。

この本で著者は職種数の激減を示すデータを掲げる。「大正9年の国税調査で国民から申告された職業は約3万5000種」であったのに対して、「最近の厚生労働省の「日本標準職業分類」によれば2167職種」(p4)になっているという。もちろん両者は職種の挙げ方や分類の基準も異なり、単純な比較はできないだろうが、それにしても差が甚だしい。著者は「90年程前には、はるかに多様な職業の種類があり、職の多様性も高かった」という。

ナリワイをつくるという働き方と、関連しそうなキーワードを挙げるとすれば、DIY、プロシューマ、ブリコラージュなどが考えられる。ナリワイで生きる人は、自ら生産者であり、消費者でもある。彼らは、生活におけるありあわせのものを工夫してそこから必要なものを生み出していく。そうした生き方は、工業化時代においては、選択しにくかったであろうが、脱産業化時代、高度情報化時代と言われる現在においては、様々な環境が整備され、そうした生き方を選択しやすくなったと言えるだろう。現代とは、職の多様性の復活が可能な時代なのである。それに対して、会社に就職して働くという、現在でも社会の主流である働き方は、グローバル化の進展やAIの発展などの変化により、維持が困難となっており、ナリワイをつくるという働き方は、その問題への対応となり得る。

ナリワイで生きるための前提条件として、著者が強調するのは、「人生における支出を点検し、カットする」ことである。例えば、家賃の支出を避けるため、自分で家を建てるという選択肢も挙げられる。これもネット上には、自分で家を建てた人の経験談や家の作り方の情報もふんだんにあるので、そうしたものを参照すれば、無理、不可能ということもないだろう。支出カットということで言えば、僕自身も、これまで昼食は外食ばかりで、平均すると毎日1000円弱ほどの支出があったが、これは辞めることにした。妻の手弁当に切り替えることにした。カットした金銭は、自らの創造的な活動の資金に振り向けたい。

この本で述べられていることは、会社で働くという、社会の主流の働き方とは異なる、新たな働き方の選択といえるものであり、大変に参考となる。