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エレクトロ・ショック

ロラン・ガルニエの「エレクトロ・ショック」を読んだ。

感動的な本だ。ハウスミュージックのカルチャーに関わり、そのシーンを創り上げていったフランス人DJ、ロラン・ガルニエの経験。このジャンルの音楽に関心がない者が読んでも充分に面白い。全体として、文面から、とてもポジティブな姿勢が感じられ、読んでいて元気になる。特に感動的だったのは、彼が初めて自分で本格的な作曲を行い、最初のアルバムを制作するシーン。

少し長いが引用させていただく。

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「僕は散らかり放題の部屋に機材をセットアップし、htz,mgts,Midi,Analog,Bts,in-outといった世界にどっぷり浸かりながら、そこで毎日を過ごしていた。自分の本能のおもむくままに作業をしていた。テクノの荒っぽさをパンクの「Do it yourself」という精神に重ねあわせながらね」

「作業の仕方というものをまったく知らなかった。」「試行錯誤を重ねながら、1曲のアイデアの原型やギミック、ベースライン、コードのアレンジ、パーカッション、自分が出したい雰囲気なんかを見つけていった。2時間でその曲の80%を作ることができた。そしてそこからぐるぐる回りはじめた。音をいくつか重ねていくのだけれど、完全にわけがわからなくなってしまう。でもそのうちに理解した。曲づくりの鍵というものは洗練させること。つまり余計な飾りつけにこだわることをやめて音楽の骨組み―本質―に意識を集中させることだと。もうひとつ学ばねばならないことがあった。音楽にひとつのストーリーを語らせること。そして何よりも1曲、1曲をそれらが単体で生きなおかつアルバム全体のダイナミズムのなかに収まるように曲を作るということだ。」

「この作業は数カ月続いた。ひとりで隠れて音楽に挑戦していた。頭のなかにあったアイデアをキーボードで表現できないときは、自分はミュージシャンではないというコンプレックスが大きくなった。毎晩のように抜け道も見つけられないまま、同じギミックの周辺を何時間もぐるぐる回っていた・・・」「明け方の灰色の光がパリの上に昇ってきたとき、僕は、トラック・フォー・マイクの最後の作業をした。曲を聴き直すことさえせずにベッドの上へ倒れ込んだ」

(以上、p230~231)

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手探りで、本能のおもむくままに、没頭する姿。とてもクリエイティブな姿だ。表現活動を行い、新たなカルチャーを生みだそうと考える人すべてにとって興味深い本に違いない。

聴く経験をコトバにする

音楽評論という表現のあり方を考えるとき、湯浅学という人は絶対に外せない。湯浅学氏の「音楽が降りてくる」を読んだ。

アルケミーレコードの面々の音を聴いて、彼はいう。

「ノイズはノイズであり、ノイズのようなもの、ではない。真剣にならなければノイズ発信者は自分の出しているノイズに負けてしまう。体験として俺はそう思う。インキャパシタンツを見るたびに感動し、非常階段を聴くたびに爽快な気分になるのは、当然浄化作用もあるが、彼らは音を出しているのではなく音と戦いながら引き分けには必ず持ち込むが、その過程を赤裸々に見せつけるからである」(p91)。

音楽を聴くという経験を、如何に言葉に置き換えてみせるか。

ある瞬間には、その瞬間なりの状況がある。

その状況を如何に捉えるか。

そのためのレトリック・・・・

「ノイズはノイズであり、ノイズのようなもの、ではない。」

「ノイズのようなもの」、が挿入されることで、

動きが生まれ、状況は際立つ。

「爽快な気分になるのは、当然浄化作用もあるが、彼らは音を出しているのではなく音と戦いながら引き分けには必ず持ち込むが、その過程を赤裸々に見せつけるから」

聴くという体験が波状に押し寄せる。

意識の波うちぎわ、皮膚の表層で、

生まれては消える、感覚の諸相。その揺らぎ、振幅。

それに対応する言葉を、貝殻のようにひろって、

重層的にひろげて・・・・・・

これからの音楽レーベル

「未来型サバイバル音楽論―USTREAM,twitterは何を変えたのか」(中公新書ラクレ:津田大介、牧村憲一他)を読んだ。これからのアーティストやレーベルの在り方を考えるうえで、様々な示唆に富んだ一冊。

「新しいアイデアを実現する環境が登場してきたとき、それを使って何ができるんだろう、どんな面白いことをするんだろう、そこでどういうキャラクターの打ち出し方ができるんだろう、とストーリーを考えるのがこれからの未来型のレーベル」(p146)だという。そのためには、「絶えず技術やデジタル化のような環境の激変に対して、本当にセンシティブであり続けること」が重要であり、その新しい環境に対応しながら「アーティストがどういうキャラクターやストーリーを打ち出して、ネット時代のパーソナルとしてどう消費してもらうか」を考えなければならない。

レーベルの意義について牧村氏は「自分がリスナー、ユーザーとして、一つの音を知るための手口、あるいは音の周辺をするための手口としてのラベル、デザインされたロゴマークも含めた目に見える信頼性という意味でのラベル」(p63)であるという。

そしてレーベルの果たす役割は津田氏によれば「どういうふうにムーブメントを起こしていくか」(p44)を考えることであり、そのためには、「何を目標にしているのか、どういうことを表現したいのか。今の時代にとって、何がヴィヴィッドなのかというところを押さえて、どう演出するかということがレーベルの主な役割でしょう。そこで、ミュージシャンだけに限らず、どういうクリエイターを連れてきたら一緒に面白いものができるか、そういう視点で考えることが、恐らくこれからレーベルを作る上でキーポイントとなります。」(p56)

ウェブサービスの変化に関して、「今までネットは、ずっと『とりあえず置いておいて後で検索しよう』というストック型のものでした。ところが、初期衝動のようなものが、ツイッター、ユーストリームの登場で伝わりやすくなっている。」(p57)との津田氏の指摘もなるほどと思った。ツイッターやユーストリームはライブ性の強いメディアなのだと再認識した。そうしたツールを使うことで、ウェブでの活動の可能性は広がる。

高円寺の『円盤』や下北沢の『モナレコード』の取り組みや、「まつゆきあゆむさんの『一億年レコード』など実例も豊富に採り上げられており、参考となる。