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ロマン的イロニー

藤野寛「キルケゴール 美と倫理のはざまに立つ哲学」(岩波現代全書)を読んだ。

藤野氏は、イロニーが「地上にあるものいっさいを越え出てあることから来る自由な姿勢」(p55)という特性を示し、物事を深刻に受け止め「大真面目に取り組む姿勢」は、イロニーの対極にあるという。イロニー的態度を実現するためには、「対象から隔たりを置くこと(Distanzierung)」、しかも「上方に向かうことによって、垂直に隔たりを置くこと」が必須となり、世界を上から見下ろすことになる。結果として、イロニカーは「傲慢で嫌味な存在」とみられることが多い(p58)。キルケゴールは、無知の知を唱えたソクラテスをイロニカーの典型として称揚する。

ドイツロマン派のシュレーゲルは、ロマン的イロニーを唱えたが、これは実践理性の哲学を唱えたフィヒテ哲学の影響を受けたものであり、観照的態度に類似するイロニーが、ここにおいては「目的論によって貫かれたプロセスの理論、運動の理論」(p58)となったと藤野氏はいう。「イロニーに「ロマン的」なる形容詞を結びつけることを可能にするのは、他でもない、否定とその否定をさらに否定することでより高い地点に越え出てゆこうとする、精神の」前進運動・上昇運動である。イロニーは元来、否定することを基本的な特質としているが、否定の対象として自己を措定し、否定の「終点のないプロセス、無限の運動」(p60)こそがロマン的イロニーである。これは芸術創造の在り方そのものといえるだろう。

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