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パワーシフト

アルビン・トフラー「パワーシフト」を読んだ。トフラーの「第三の波」は1980年に書かれた本であるが、「第三の波」でトフラーが提示したプロシューマという概念は現在でも有効である。何よりも、このブログ自体が正にプロシューマの実践例である。この本は、「第三の波」「未来の衝撃」とともに三部作をなし、その完結編ともいえる位置づけの書である。原書の出版は1990年

「暴力や金力で立ち向かうように仕掛けられた時でも、知識を使えば他の方法で立ち向かえる。知識は最高質の力を生み出すのだ」。トフラーは、この本において、「権力を行使する道具・梃子」が、暴力や金力から、知識へと移行していることを指摘している。パワーシフトというタイトルは、そのことに由来している。

「ある程度の不平等の存在はそれ自体では不道徳ではない。道徳に反するのは、力をもたらす諸々の手段を悪配分し、その状態のまま凍結してしまうシステムである。」これはトフラーの社会観が伺われる言葉である。自由競争を是認する以上、ある程度の不平等が生じるのはやむを得ない。しかし特定の社会経済関係が固定され、階級化されることは望ましくない。社会経済が常に流動し続けることが好ましいとトフラーは考えているようだ。そして、暴力や金力による支配から、知識へのパワーシフトは、社会構造を変えることになり、そこにトフラーは可能性を見出していると言えるだろう。

この本は、知識社会の到来を指摘した一冊と言えるが、この本から、トフラーの考える知識のあり方を示す言葉を引用させていただく。

「知識の新しいネットワークが創られつつあるということである。いろいろな概念が肝と潰すような形で互いに結びつき、驚くべき推論のヒエラルキーが構築され、新奇な前提と新しい言語、符号、論理を土台とした新しい理論、仮定、想念が生まれてくる、といった具合にネットワークがつくられつつあるのだ。」

「データを様々な方法で相互に関係づけ、それらに文脈を与え、そうすることによってデータを情報へと整えていることだ。そして情報の束をどんどん膨らませて、各種のモデルと知識の殿堂を創りあげていることだ」(上p139)

収集されたデータから情報が生み出され、その膨大な情報から知識が生まれ、さらにその知識がネットワーク化され、新しい知が生み出される。ここで為されるネットワーク化は、「いろいろな概念が肝と潰すような形で互いに結びつき」という表現から伺えるように、従来の知の体系に囚われず、むしろそれを覆すことを含意する。ちなみに、このブログにおいて僕が為そうとしていることは、ささやかながら、個人レベルでの、そうした知識創造の実践である。こうした知識創造のプロセスが社会全体で加速化・最大化され、「経済の全基盤に革命的変化」が生じ、これまでとは極端に違うルールに基づく「超象徴経済」とでもいうべきものが現出する。仕事の内容も「シンボル操作にますます頼るようになる」とトフラーは言う。シンボルアナリストという存在の台頭である。

その後、さらに歴史は動き、貨幣が実体経済から飛翔し、いわばシンボルとして操作される事態、知識そのものの創出より、知識が集積するプラットフォームを支配するGAFAのような存在がパワーを持つという事態などが生じている。この本でトフラーが指摘している事項には、こうした時代や社会のダイナミックな変化を的確に捉えているものもあり、現在読んでも学べることがある。トフラーという人は、本質を見抜く力を持った稀有な存在であったと思う。過去を振り返り、何が時代の変化を規定する本質であったか、それを確認し、考えるうえで、トフラーの三部作は、再読する価値がある。