日本資本主義の父と呼ばれ、紙幣にも肖像が登場することとなった渋沢栄一氏の著書「論語と算盤」。ちくま新書から、その現代語訳が出ている。この本のなかで、渋沢氏は、お金の使い方について次のように書いている。
「お金に対して、無駄に使うのは戒めなければならない。しかし同時にケチになることも注意しなければならない。よく集めることを知って、よく使うことを知らないと、最後には守銭奴になってしまう。」(p103)
そのとおりだと思う。
自営業者になって、お金に対する観念が変わった。請負の仕事の場合には、終わってから初めて報酬をもらうことになるので、場合によっては数ヶ月、収入が少ないこともある。そうした期間は、お金のありがたみを強く感じる。極力、無駄な使い方はやめようと思うようになった。サラリーマンの頃は、そうは思わなかった。いつも決まった金額をもらうので、お金の使い方も、毎月、だいたい同じパタンであった。そのパタンを繰り返していれば、お金に困ることはなかった・・・自営業者になると、いわゆる羽振りのいいときと、そうでないときの波がある。だからお金に処する姿勢をしっかり身につけないと生きていけない。
先日、ある自営業者から興味深い話をきいた。その人はある時期、一挙に1億程度の金を手にしたそうだ。その金を元手に新規事業を行ったが、結果的にお金が出ていくばかりで、ついには破産寸前にまで追い込まれたそうだ。
「浮利を得ると、ひとは間違いをおかしがちだ」とその人は言った。
結局その1億円がその人を苦しめる原因となったわけだ。この話をきくと、大金を得ることは、そんなに喜ぶようなことでもないと思える。そして大金を手にする可能性のある人は、お金に対する姿勢を、きちんとしておくべきだ。きちんとするというのは、手にした大金をひたすら貯め込むということではない。渋沢翁のいうとおり、よく集め、よく使うことが大切だ。特に自営業者の場合、次に何か新しい事業をやろうと考えるときには、必ずキャッシュが必要となる。手元に使えるお金があることが、とても大切なことになる。