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言語学に関するメモ

20世紀以降の知における、特色のひとつとして、言語への関心をあげることができるだろう。

人類は、何千年にもわたり、知の体系を編み上げていたわけだが、それは言語を中心とする記号の使用を通じて為されてきた。二つの大戦を経て、理性に対する不信が蔓延し、ひいては、これまでの知の体系に対する反省を強いられることになり、その結果、知を表現する手段としての言語そのものへのアプローチが顕著となったと言えるだろう。こうした流れのなかで、言語を対象とする言語学が、知の世界における花形として、クローズアップされるようになってきた。

言語研究に革命を起したとも言われるチョムスキーの生成文法。その意義について、西田龍雄氏の「言語学を学ぶ人のために」の記述に基づき、要約する。

「人間が特定言語で日常どのような文をも生成することができるのは、一定の仕方で音声と意味を関連づける」「規則の体系を内蔵したものを、その言語の知識として持っているから」であるとチョムスキーは考えた。その規則は、大きく3つに分けられる。

①文を形成する規則の集合(=統語規則)
②文を解釈する規則の集合(=意味規則)
③文の発音を決める規則の集合(=音韻規則)

そしてチョムスキーは、人類が持つ言語の知識をこれら「3つの規則の集合として定式化するところに文法論の目的がある」と考えた。「チョムスキーによれば」「目に見えない生得的な人間の言語能力を探求するのが、文法理論の究極的な目標である」(p310)。

具体的にどのような理論を唱えたかは、ここでは触れないが、チョムスキーの理論への評価としては、従前の言語学が「心理主義を排斥した」のに対して、「むしろ心理主義に立脚している」点に特色があり、「全体の見方が演繹的である点も、帰納的な構造主義と対立する」という。

(以上、p19~22)

チョムスキーの生成文法に対する批判的勢力として有力なものとして、認知言語学があるが、この本には、残念ながら、認知言語学についての記述はみられなかった。

認知言語学の特色について、山梨正明氏の「認知言語学原理」から幾つか引用させていただく。 従来の言語学が扱ってこなかった視点について、山梨氏は次のように述べる。

「一般に、これまでの言語学の研究では、形態、構造、真理条件的な意味を中心とする言葉の知性的な側面を反映する研究が中心となっており、言語の感性的、身体的な側面にかかわる能力、さらにこの種の能力をふくむより包括的な認知能力の観点から、言葉の世界を問い直していくという視点は考慮されていない。」(p2)

言語学が扱ってこなかったとされる認知能力であるが、 「主体が外部世界を認識し、この世界との相互作用による経験的な基盤を動機づけとして発展してきた記号系の一種 」であるという言語の性質からすれば、この能力は無視できない。 「言葉の背後には、言語主体の外部世界に対する認識のモード、外部世界のカテゴリー化、概念化のプロセスが、何らかの形で反映されている」 のである。

そして「認知言語学は、このような人間の認知能力にかかわる要因を言語現象の記述、説明の基盤とするアプローチをとる」わけである。「外部世界を解釈する主体の認知のプロセスには、「抽象化・具象化のプロセス、焦点化のプロセス、視点の投影、視点の移動・変換、図ー地の反転、前景化-背景化のプロセスをはじめとするさまざまな解釈のモードによって特徴づけられている」(p19)

これらは、認知科学の研究成果に基づく知見であり、認知言語学は、その知見をバックグラウンドとして成立している。このような特質を有する認知言語学は、主体性や身体性なども重視し、メタファーなどについてもテーマとなる。