藤原安紀子さんの詩集「ア ナザ ミミクリ」を読んだ。
とてもスタイリッシュな詩集だと思う。一つ指摘したいのは、空白に対する鋭い自覚をこの詩人が有しているということ。これは重要な点である。この詩集の空白が、読み手の想像力を刺激する。また意味的な側面で、この詩集を捉えるならば、はぐらかし、ずれ、が非常に面白い効果を生み出していると思う。「イヲ」という語が出てくるが、文字の形態から言えば、イヌとほとんど同じなのだが、イヲとイヌの形態における少しの差が、意味における大きな差を生み出している。それが非常に興味深い。イヌと読みたいのだが、読めないもどかしさ。
この詩集を読んで突きつけられるのは、書かれた言葉の連なりに作者がこめた概念的意味などなくても、詩として成立し得るという事実。なぜそんなことが可能なのかと言えば、しっかりとフォームが確立しているからだと思う。ありのまま、率直に言えば、藤原さんの作品は、意味不明な言葉の断片の積み重ねにすぎない、とも言えるのだが、その意味不明な言葉の連なりが、巧みな構成によって、疑いようもなくひとつの詩作品が生まれている。巧みな構成と言ったが、断片には、幾つかのパタンがあって、それが交互に上手く現れ、抽象画や音楽のような構成美が醸し出される。そこに作者の知性が感じられる。文学というより、言葉によるアートと呼びたい誘惑にかられる。
・