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自律的な芸術の起源

大橋洋一氏の「新文学入門 T.イーグルトン『文学とは何か』を読む」(岩波書店)より、「美のイデオロギー」においてイーグルトンが指摘している芸術の自律性の起源に関する箇所を引用させていただく。

芸術は、「19世紀後半といってもいいかもしれないが、哲学的なもの、倫理的なもの、道徳的なもの、政治的なものから自律したものとなる。けれどもこのように自律的になった筋道は、逆説的であって、芸術は奇妙なことに、資本主義的生産様式に統合されることによって、はじめて自律的となったのである。」

「資本主義的生産様式に統合されること」で自律的となった芸術とは、商品としての芸術作品が発生したということであろう。例えば、長らく絵画は、宗教と密接に関わっていたし、王侯貴族の要請に応えるものであった。顧客の依頼に応じて制作されるものから、芸術作品においてもマーケットが成立し、そこで自由な交易が行われる状況が発生することで、「逆説的」「奇妙なこと」ではあるが、画家が自発的に表現するという意味において「自律的な」芸術が生まれたというのである。これは興味深い指摘であると思う。

近代以前のように、顧客の依頼に応じて作品が作られる場合には、表現やテーマの類型化・水準化といったことが生じやすいかもしれない。なぜなら、顧客のニーズは、決して多様なものではなく、似たものとなるであろうから。そうした状況で着実に仕事をもらうためには、そのニーズに応えなければならず、結果的に表現やテーマが定式化されることになるのだろう。

それに対して、特定の顧客とのつながりが切れたオープンな状態になれば、芸術家の表現の幅は一挙に広がり、マーケットで注目を浴びるために、むしろ新奇性のほうに着眼的が移ることになるだろう。その結果、さまざまな芸術表現が生まれることになったと言えるかもしれない。