山田信哉「目のつけどころ」(サンマーク出版)を読んだ。
山田氏は「さおだけ屋はなぜ潰れないのか」というベストセラーを生み出した公認会計士である。「目のつけどころ」は、その山田氏の発想方法、よい目のつけどころを掴むための「パターン」を集めた一冊である。よい目のつけどころを得るためには、まず分析によって多くの視点を挙げることが必要ということで、山田氏は自らが実践している分析の視点のパターンをこの本では6つ挙げている。次に、そうやって得た多数の視点を「リストアップし」、そこから「これだと思うものを選んで、軸にしてみる」(p72)。そうやって2つの軸を生み出し、マトリックスを形成することを山田氏は勧める。このマトリックスこそが、アイデアが生まれる舞台となるのだ。思いついたアイデアをそのマトリックスに配置していき、さらにマトリックスの空いた象限にアイデアを配置していく(その実例はぜひ同書で確認してほしい)。そのマトリックスを山田氏は「黒十字アイデア法」と名づける。このあたりが、山田氏のうまいところであり、その著書が多くの人に読まれるポイントだろう。つまり遊びがあるのだ。
山田氏の経歴を拝見すると、文学部出身のようである。山田氏の柔らかい発想と柔らかいレトリック。山田氏は、べつにそれを大学の授業を通じて得たわけではないだろうが、今後の大学の文学部は、山田氏の有するこういったセンス身につけることができる場となるべきではないだろうか。アート系大学と相並び、クリエイティブ人材を育成する場としての文学部。ちょっと脱線気味の感想であるが、そのように思った。この本の後半では、テレビのコメンテーターとしての経験に基づいて、「説得力や切れのある発言をするためのフレームワーク」(p15)について述べられている。くすっと笑ってしまうような文章であり、さすがだと思う。
この本を通じて思うのは、よい目のつけどころというのは、正解が一つしかない問いへの答えのようなものではないということ。よい、悪いというのは相対的なものであり、幾つもの目のつけどころはあるなかで、どうチョイスをするのかが問題となる。考えてみれば、世の中にある問題には、正解がひとつしかないような問いのほうが少ない。そうした問題にどのように対応すべきか、その方法論には、様々なパターンがあり得るだろうが、この本は自らのパターンを編み出すうえで、参考となる。