藤田精一「損得計算入門」を読んだ。
私たちは日常、損得勘定をすることがあるが、翻って損得の判断とはどのようなものなのか?場合によっては損得を考えようとして、誤った判断をしている場合もあるだろう。この本は、損得判断について、具体例を交えながら、わかりやすく説いた本である。
同書の最初の方に、「損得判断の基本原則」が掲げられており、少し紹介させていただく。2つの原則が挙げられているが、第1原則は「比較の対象を明確にする」というものだ。損得判断とは、何よりも比較による判断なのだ。「美しい、忙しい、高い、早い、」「など、どのような形容詞でも、それらの用語を使うときには比較の対象を明確にすることが必要です。正確には「何と比べてこうなのだ」と言わなければいけないのです」(p19)。
そして次に大切なのは、「違いを調べ」「違いを比べること」となる。第2原則はそのことを表現したものであり、引用させていただくと次のようになる。「比較の対象の間で、お金の流れに着目して収益の違いと費用の違いをそれぞれ総額でとらえる。そのとき利益の違いは収益の違いと費用の違いの差で表される。つまり利益の違いは次式で与えられる。利益の違い=収益の違い-費用の違い」
また会計における思考法と損益判断の思考法の違いについても触れられ、会計思考が「現在の位置に立って過去を見渡」(p35)すのに対して、損益思考は「過去には目をつむり、これから先の将来を見越して収益と費用を捉える」(p36)未来志向の思考なのだという。
この本では、さらに割勘思考との考え方の違いや、埋没費用・機会費用とは何か、意思決定の選択肢に関する排反案・独立案の違いなどについて解説が為されている。誤った損得判断で間違った意思決定をなさないために、この本の効用はきわめて大きい。