巨象とはIBMのことである。
「IBMに来た当初は、それほど多くを期待していたわけではないが、社内情報システムは世界最高だと思っていた。わたしにとって、これが最大のショックだったかもしれない。社内システムだけで年間40億ドルを費やしていたにもかかわらず、事業を進めるうえで基本となる情報すらもっていなかったのだ。システムは骨董品級で、システム間のやりとりができない・・・・・」
1990年代初頭の、これが世界のIBMの姿であった。
この状況から、IBMをソリューションビジネスを軸とする企業として復活させたのが、
著者のルイス・ガースナーである。
彼がCEOとなった頃、コンピュータ産業界では、IBMのように総合的な統合パッケージを顧客に提供するタイプの企業ではなく、DBソフトだけを販売する会社、OSのみを販売する会社など、コンピュータソリューションの一部のみを提供する新種の情報技術企業が多く現れ、そうした環境変化のなかでIBMは行き詰っていた。そのため、多くの専門家や識者はIBMを解体し分割すべきだと論じた。
しかし、ルイス・ガースナーはその論に組しなかった。
彼はあくまでもIBMを分割しないでスケールメリットを維持することに拘った。
彼は、IBMの復活の鍵は別のところにあると考えていた。
顧客は従来のIBMによる業界支配にうんざりしていたのだ。
顧客本位の姿勢を強めることこそが、その鍵であり、
分割すれば済むような問題ではないことを彼は認識していた。
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彼の就任後の記者会見は印象的だ。
多くの記者を前にして、彼はこう言った。
「わたしがいつIBMのビジョンを発表するか、さまざまな憶測が飛び交っている。皆さんに
申し上げたいのは、いま現在のIBMにもっとも必要のないもの、それがビジョンだということだ。」
あえて将来的なビジョンを掲げるのではなく、
まずは目先の問題、収益性の回復を目指すと彼は宣言した。
そのうえで、メインフレームから、クライアント・サーバー分野に進出し、ドメインの再定義を行い、時代環境に適応した形で、総合的な統合パッケージを顧客に提供する企業であり続けると言った。そして最終的な目標として、彼が挙げたのは、顧客本位の姿勢を強めるということであった。
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本書はどこを切ってもルイス・ガースナーの実践の結果報告であり、どちらかといえば、淡々と書かれているが、会社の現状に対して、彼が一つひとつ判断を下し、徐々にIBMが復活していく様は、読んでいて、強い感動を覚える。強く薦めたい一冊である。
なお、巻末には、ルイス・ガースナーが全従業員に送ったメールの文章が、掲載されている。彼は重要なポイントと思う時期を選んで、全従業員にメールを送っていたのだ。どのような事態を彼がIBMにとって重要と捉え、その事態に対して、どのようなメッセージを送ったのか。これはリーダシップ発露の貴重な生きた見本である。