中山康樹氏の「ビートルズとアメリカ・ロック史―フォーク・ロックの時代」を読んだ。アメリカは、「ロックンロール」を生んだが、それが「ロック」に生まれ変わるには、イギリスを迂回する必要があった。アメリカのロックンロールとブルーズは大西洋を超え、イギリスでブリティッシュロックとなる。その精華ともいうべき、ビートルズが今度はアメリカで一大旋風を巻き起こす。そのイギリスからの侵略に対するアメリカからのアンサーが、バーズのフォーク・ロックであった。フォーク・ロックこそがアメリカ流の初めてのロックである・・・以上が本書の基本的な見立てということになるだろう。
この本では、フォーク・ロックにまつわる有名な伝説の真偽が論じられる。それはどんな伝説か。
ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」には、印象的なオルガンがフューチャーされているが、それは本来の録音メンバーではなく、たまたま見学に来ていたアル・クーパーが無断で参加したというもの。加えて、その日にもうひとつの画期的な出来事がその場所で行われたという。メジャーから初めてのアルバムを出したが売れ行きが芳しくなく解散した無名のフォーク・デュオがいた。その日、彼らの知らない間に、彼らの曲にオーヴァーダビングが施され、歴史に残る名曲となった・・・そのフォーク・デュオは、サイモン&ガーファンクルであり、曲は「サウンド・オブ・サイレンス」。なんとも凄まじい伝説である。
その真偽についての中山氏の推理については、同書で確認してほしい。
ただ一つ明らかなことは、「ライク・ア・ローリング・ストーン」にも「サウンド・オブ・サイレンス」にもかかわった一人のプロデューサーが存在すること。トム・ウィルソン。僕は本書で初めてその名を知った。「フォーク・ロックが『自然に生まれるもの』より『作り出すべきもの』に比重を置いた音楽である以上、プロデューサーが果たす役割は、ときにミュージシャンより大きく、重い」(p46)と中山氏はいう。如何にして、新しい音楽表現は、産み出されて行くのか。フォーク・ロックを素材にして、その有様を探求した書。とても興味深い。