ライフネット生命会長兼CEO出口治明氏の「大局観」を読んだ。
著者は、リーダーにとって「大局観」が大切であり、それは「何かが起こったとき、東西南北のどの方向に行けばその組織が生き残れるのかがわかる能力」(p25)であると言う。
大局観を身につけるためには、「「歴史」と「世界」という縦横二つの思考軸を活用するのがいちばん」と著者は言う。また著者は、意思決定の際に「直感」に従うとする。それでは直感とは何か?「何か課題を与えられると、脳は無意識の領域でも自分の脳内にストックしてある知識や情報を検索し、さらにそれらを足したり引いたりして最適解を導き」だすが、それこそが「直感の正体」である(p4)。直感の精度を上げるためには「ストックしてある知識や情報=インプット」の絶対量を増やすことが必要となる。逆に「仕事が思うようにいかないのはたいていの場合、インプット不足に原因があるといってよい」(p93)のである。
新企画のアイデアを出せと言われても、妙案が浮かばないのは、インプットが不足しているのだ。「インプットの蓄積を増やしていくと、あるところを境にして、あたかも水槽の水があふれ出るようにラクにアウトプットできるようになる瞬間」(p97)が訪れるという。
著者のインプットの方法は、読書と「世界を旅し、さまざまな人と邂逅を重ね」(p4)ることと言えるだろう。読書については、ある分野についてまとまった数の本を集中的に読んでいるようであるが、その際「まずは「分厚い本」から読む」というのが著者の流儀。多少無理をして読んでみることで、「全体の輪郭」が見えてくるのだそうだ。あるいは「会いたいと思った人にはすぐ会いに行く」、旅先の都市で道に迷ったら、「細くて少し危うそうなにおいのする裏通り」を選ぶなど、著者独特のやり方がある。
インプットとともに重要なのがアウトプット。著者は「インプットを増やすためには、逆立ちするように考え、アウトプットの機会を強制的に設けることが有効」(p98)であり、「締め切りのある、まとまった量の課題に対し、ある程度の質のアウトプットを続けると人の能力は格段に上がる」(p100)という。これも大切な点である。
僕も大手生命保険会社に就職し、少しの間ではあったが勤務した経験がある。正直言って激務であり、毎晩終電で帰る日が続いた。自分の場合は、その環境に流され、自分を見失いそうになったので、結局、退職をした。著者も激務のなかにあったに違いない。しかし、そのなかで、自らを見失うことなく高め続けることができた著者は、自分の経験に基づいて言えば、それだけで尊敬に値する。
なお、この本は著者が多忙であることから、取材・構成の担当者(山口雅之氏)が存在する。とても読みやすい文章を構成したのは、山口氏であろう。good job!