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ことばの6機能

ジョルジュ・ムーナンの「二十世紀の言語学」(白水社)から、ロマン・ヤコブソンが唱えた「ことばの6機能」に関する記述を引用させていただく。

まずヤコブソンが前提としたコミュニケーション伝達のモデルがある。これによれば、「<発信者>と<受信者>があり、その両者を伝達<経路>がつなぎ、世界すなわち<照合対象[関説対象]>にかかわる発信者の経験的所与を伝達するために、<コード>にもとづいて構成された<メッセージ>が経路内を通過していく」。

ヤコブソンは、このモデルの構成要素(<発信者><受信者><経路><照合対象><コード><メッセージ>)のそれぞれに対応する形で、ことばの機能が6つ存在すると主張した。

1.対象照合的(表示的=デノテーション的)機能
⇒コミュニケーションがおもに照合対象を目標としている場合

2.表現的(情動的)機能
⇒コミュニケーションが自分のメッセージに対する発信者自身の態度をとりわけ目標としている場合

3.働きかけ機能
⇒コミュニケーションが受信者を目標としている場合

4.呼びかけ機能
⇒メッセージが、経路の良好な作働あるいは受信者の注意を検証するための要素を含んでいる場合

5.メタ言語的機能
⇒コードを明示するためにメッセージが利用されている場合

6.詩的機能
⇒メッセージのねらいがメッセージ自体の、そのものとしての形態の精製に集中している場合

これは言語の機能を手際よくしかも洩れなく説明しているように思えるが、ムーナンは、ことばの「遊戯的機能」が閑却されているという。ヤコブソンが機能としたものは、「ことばのもつそれぞれ特殊な<用法>であり、」「言語学的な、形式的基準をもっていない」とする。

ムーナンは、ヤコブソンの詩学にも触れている。ヤコブソンは「詩的機能の特性」について①「メッセージをメッセージそのものとして目標化すること、メッセージ自身のためのメッセージという点を重視すること」とする。また、②「詩的機能は選別軸の等値原理を組合せ軸の上へ投影する」とも書いている。

ムーナンは、これらのヤコブソンの言説をわかりやすく翻訳してくれる。まず①については、「詩においては、内容とは形式のことなのだ」ということ。②は、「詩的形式は、一般に<体系内において[範列的に]>のみ連合し合っている音や形式や意味を<連鎖内において[連辞的に]>再現することによって効果をあげるのだ、という事実をさしている」という。

ヤコブソンというと大きな存在であるが、その理論をムーナンは冷静かつ容赦なく批判的に捉えていく。とても知的な刺激に富んだ一冊だと思う。

なお訳者あとがきには、言語学を理解するうえでの参考書として以下のようなものが挙げられている。門外漢である僕にとっては、参考となる。

・アンドレ・マルティネ「一般言語学要理」(三宅徳嘉訳・岩波書店)
・ジョルジュ・ムーナン「言語学とは何か」(丸山圭三郎他・大修館書店)
・ミルカ・イヴィッチ「言語学の流れ」(早田輝洋・井上史雄訳・みすず書房)