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ロマン的イロニー

藤野寛「キルケゴール 美と倫理のはざまに立つ哲学」(岩波現代全書)を読んだ。

藤野氏は、イロニーが「地上にあるものいっさいを越え出てあることから来る自由な姿勢」(p55)という特性を示し、物事を深刻に受け止め「大真面目に取り組む姿勢」は、イロニーの対極にあるという。イロニー的態度を実現するためには、「対象から隔たりを置くこと(Distanzierung)」、しかも「上方に向かうことによって、垂直に隔たりを置くこと」が必須となり、世界を上から見下ろすことになる。結果として、イロニカーは「傲慢で嫌味な存在」とみられることが多い(p58)。キルケゴールは、無知の知を唱えたソクラテスをイロニカーの典型として称揚する。

ドイツロマン派のシュレーゲルは、ロマン的イロニーを唱えたが、これは実践理性の哲学を唱えたフィヒテ哲学の影響を受けたものであり、観照的態度に類似するイロニーが、ここにおいては「目的論によって貫かれたプロセスの理論、運動の理論」(p58)となったと藤野氏はいう。「イロニーに「ロマン的」なる形容詞を結びつけることを可能にするのは、他でもない、否定とその否定をさらに否定することでより高い地点に越え出てゆこうとする、精神の」前進運動・上昇運動である。イロニーは元来、否定することを基本的な特質としているが、否定の対象として自己を措定し、否定の「終点のないプロセス、無限の運動」(p60)こそがロマン的イロニーである。これは芸術創造の在り方そのものといえるだろう。

浪漫的イロニーhttps://kotobank.jp/word/%E6%B5%AA%E6%BC%AB%E7%9A%84%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%83%BC-1609464

財務会計と管理会計

谷武幸氏・桜井久勝氏の「1からの会計」を読んだ。会計について学ぶ最初の一冊に適したテキストである。

本書では、会計に関する基本概念について「概念フレームワーク」から引用している。恥ずかしながら概念フレームワークについて初めて知ったが、これは企業会計基準委員会の発表した討議資料であり、企業会計の基礎となる概念等を体系化したものある。概念フレームワークに依拠していることから、本書における会計の基本概念は正確であり、信頼性が高い。わかりやすさを標榜して我流の説明をしている類書も多いので気を付けたほうがいいだろう。

https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/misc/begriff.html

会計の分野には、財務会計と管理会計があるが、その両者の意義について、本書から、引用させていただく。「財務会計は、企業をめぐる利害関係者、すなわち社債権者・金融機関などの債権者と株主の利害調整や投資者に対する情報提供を機能とする会計の分野である」(p12)。それに対して管理会計は、「企業における経営管理のための会計に関わる分野であり、その情報を利用するのは」(p13)企業の経営管理者であることから、管理会計と呼ばれる。

本書は財務会計を中心とした内容であり、だれもが知っている企業の開示した会計情報を例に挙げながら、説明がなされるので非常にイメージしやすい。

この本では、 ドイツの社会経済学者W.Sombartの 「複式簿記がなければ、資本主義経済の発展はなかったであろう」という言葉が紹介されている。確かに複式簿記は、よくできた制度だと思う。簿記をマスターしたい、そんな気になった。

行政書士のキャリアデザイン

 ぼくは生業の一つとして、昨年から行政書士登録をしている。どのように業務を行っていくか考えるなかで、「行政書士の業務展開」(成文堂)を読んだ。

 この本には、タイトル通り、行政書士の様々な業務展開について幾つかの論稿が掲載されているのだが、そのうち近藤秀将氏の「行政書士「コンテンツ」経営論」は非常に参考になった。

 「他士業と異なり」、行政書士の場合は、「各行政書士によって大きく専門分野が異なっており」、行政書士会自体が「行政書士のキャリア像(行政書士のあるべき姿)」を示し得ていない現状が指摘されている。確かに行政書士というと、一般に何をする人なのか、よくわからないと言われることが多い。

 この現状に対して近藤氏は、「だからこそ、各行政書士自身が、独自のスキームを確立する余地があるとも言え」、「行政書士の業務スキームに創造性が介入する余地を広げている」(p22)と言う。この近藤氏の見解は、これから行政書士を名乗り、業務を行う僕にとって、大きな示唆を与えてくれる。

 漫然と行政書士を名乗るのでは業務にならない。自分自身でキャリア像を設定することが極めて重要である。ぼくの場合、その設定にはもう少し時間がかかりそうであるが、今のところ、キャリア像を思うときに、浮上しているのは「ソーシャルデザイン」という言葉である。 このキーワードに基づき、行政書士としてのキャリアデザインを構築していきたいと考えている。 ソーシャルデザイン:wikipedia

  言うまでもなく資格というのは、それを取得すれば収入が保障されるようなものではない。他士業同様、行政書士資格も取得すれば、直ちにそれで食えるような類のものでは全然ない。資格取得はゴールではなく、スタート地点にすぎない。 行政書士に登録するまでには正直に言って逡巡した。特に、ネット上の情報では行政書士は「食えない資格」と言われることが多い。

 登録してみてわかったことは、本当に人それぞれで、廃業する人も多い反面、活躍している人も多い。つまり「食えない資格」ではなく、実際にそれで「食えている」人も多い。行政書士の平均年収が他の士業と比べて低いというデータもあるが、それにも理由があるようだ。行政書士の場合、他の事業経営や他の士業と兼業している人も多くいて、そうした場合、行政書士としての収入部分が極めて低い場合も少なくない。また行政書士の場合、一定の年数を経た公務員の登録が認められており、公務員を定年退職した後に登録する例も多い。そうした方の場合、悠々自適にマイペースで業務を行っていることも少なくない。どうやら、こうしたことから、結果的に平均年収が低くなるようである。

 行政書士会に登録するためには、登録料、年会費がかかる。それに見合うだけのメリットがあるのか不安もあったが、登録をすると、様々な研修の機会が用意されていて、その機会を享受できるだけでも登録した意味があった。この点は登録してみないとわからない。求めれば、それに応えてくれるだけの支援体制や、つながりが行政書士会にはある。下世話な言い方であるが、納めた年会費以上のメリットを享受できる。登録をして本当によかったと実感している。

  行政書士の業務範囲は、社会全般、多岐にわたっており、そのなかで自身の課題・テーマを見出し、取り組んでいくことが可能であり、ソーシャル・デザインに携わりたいという、ぼくのキャリアイメージを実現するために、行政書士資格を切り口・出発点とするのは、悪くない選択肢だと思っている。